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内藤廣『構造デザイン講義』

 「東京大学における講義の集成」「建築と土木に通底する構造デザインとは何か」「実践に裏打ちされた構想力による建築家の次代へのメッセージ」。建築家にして東大教授の内藤廣の最新刊『構造デザイン講義』の帯にある惹句だ。とてもとても狭い読者層をターゲットにしている様子がありありだ。たぶん、例えば街歩きや建築探訪は好きだけど理系じゃないし、とかいう人は、書店の店頭で一度たりとも手に取ることがないのではないかと思う。
 ものすごくもったいないと思う(とは言え、東大の工学系の人に向けた講義ではあるので、誰にでも勧められるものでもないとも思う)。

 組積造、スティール、コンクリート、プレキャストコンクリート、木造という構造(材)別に講義は進むが、そこで語られていることは、工学的な技術論もさることながら、哲学であり美学でもある。先人たちの英知へのリスペクトでもある。紹介されている多くの建造物の少なからぬものが観光名所なので、ちょっと視点の変わった知的観光ガイドのようでもある。伊コヒイキはじめ欧州派(誰だ?)であれば、パルテノンに始まりガウディで終わる「組積造」のところなど、楽しく読めるのではないかと思う(とは言え、誰にでも勧められるものでもないとも思う)。

 『…今後、建築や都市計画、土木の仕事をする場合、この「技術」「場所」「時間」の三つを意識し、それをどうやったら誰にでも分かり易い姿形に翻訳出来るかを強く意識しないと、社会的な合意形成をすることができなくなってくるのではないかと感じています。』(p.32)
 この「翻訳」のことを内藤は「デザイン」と捉えている。
 そしてこうも言う。
 『デザインというのは、技術の本質に迫り、根源的な人間の本性と思考方法に根ざしているものだと考えています。したがって、デザインを極めるには、対象物に対する深い理解、それを受け取る側の人間に対する深い理解がどうしても必要であることを忘れないでください。』(p.208)
 柔らかく優しげな物言いだけれど、気高く厳しい凛とした宣言であり後に続く者たちへのエールである。さぞかし刺激的な講義だったのではないかと思う。とてもおもしろかった1冊。
by mono_mono_14 | 2008-11-07 17:20 | 本/libro
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