定年ゴジラさん

 どうやら僕は涙もろくなっている。ああ、歳を取ったのだ。そうでなければ花粉症になったのだ。ちなみにくしゃみは出るし、目は痒い。これは、やはり歳を取ったのだな、うん。花粉症なんかじゃないやい。

 わりと最近に出た本(奥付には2006年12月30日発行とある)を読んでいて登場した、あ、この本は読んでみようと思ったわりと古い本(単行本の初版は1998年3月に出たと文庫本の末尾には記されている)を読んでいる。重松清『定年ゴジラ』。1963年生まれの著者が父親世代の定年後のセカンドライフを描いた連載的短編集だ。
 これはある種の計画的住宅地開発批評(必ずしも批判ではないし非難ではましてない)として読めそうだと思ったのが手にした理由だった。僕自身は住宅地開発に直接的に関わったことはないけれど、それは僕が身を置いている業界の仕事であることは確かなのだ。そして、確かに都市計画の観点からこの本を読むことは、フィクションの世界とは言え、可能なことではあった。でも、どう考えてもこの本は、父親とその傍らに常にいた母親とに捧げる物語だと思う。

 僕の父はすでに何年か前に定年を迎えている。まだ、週に1日だか2日だかはどこかに出勤しているようだが、のんびりライフだ。定年までは、その世代の働くオトーサンの例に漏れない毎日を送っていた。『定年ゴジラ』の山崎さんのようだったのだろう。東京まで2時間とは言わないが1時間半はゆうにかかる分譲住宅地の片隅に小さな小さなマイホームを構え、歯を食いしばってローンを返した。長い1日を終えて遅い電車で帰ってくる。寝ぼけ眼の母が温めたご飯を食べつつ、キリンビールの栓を抜く。ニュースでもやっていればテレビをつけ、夕刊に目を通す。ほんの何時間かが経てばまた朝が来て、父は朝刊を片手にトイレを占拠し、鳩が豆食ってパ(のオリジナル版)を唱えて家を出る。そして帰ってくるのは、また出かけることになる朝のほんの何時間か前なのだ。照る日も降る日も。暑かろうと寒かろうと。父が帰ってくると2階へと引っ込んでいく息子たち(そのうちの1人が僕だ)を気にするふうでもなく。
 ・・・と当時のばか息子その1は思っていたのだ。ほんとにばかやろうだ。僕が喘息の発作をこじらせたり、弟が不登校になったり、そんな時、父はどんな思いで我が家での何時間かを過ごしていたのか。ハードワークの日々をこなしていたのか。そんなことに今ごろやっと気づいたのか、このばかやろうめ。『定年ゴジラ』を読みつつ、こんなことにも思いを馳せながら、会社だろうと電車の中だろうと、つい目が真っ赤になってしまったりするのは、これは、やっぱり花粉症になってしまったということなのかも知れない。ちっ。
 僕が不惑を迎える同じ日に父は古稀を迎える。
[PR]
by mono_mono_14 | 2007-03-15 19:49 | 本/libro | Comments(4)
Commented by tsu at 2007-03-16 01:42 x
monoさんがそのような思いをお父様に持たれたのは、きっと『定年ゴジラ』のお陰だけではないと思いますが・・・。読んでいてとても暖かい気持ちになりました(『定年ゴジラ』じゃないですよ、monoさんの日記です)。
と同時に我が亡き父に思いを馳せ、私も目が真っ赤になりました。
Commented by mono_mono_14 at 2007-03-16 12:41
>>tsuさん
そうですね、本のおかげだけではなく、加齢か花粉症のおかげなんですよ(違)。
読んでくださったtsuさんにお父さまを思い出させるくらいには書けていたことを知り、ちょっぴり嬉しいです。ありがとう。
空はひとつですから、もうしばらくするとお父さまもきっとボローニャの上に遊びに来て、目を細めて眺めてらっしゃることでしょう。引き続きご自愛くださいね。
Commented by Giancarlo at 2007-03-25 06:21 x
うーむ.同世代のワタクシは「定年ゴジラ」の件にコメントするのは照れくさいので,全然関係ないとこにレス.
ええ,一昨日までBolognaにいました.いやタダぶらぶらイタリアにいただけなんですが,遊びで.
実は友人がBolognaにPizzeriaを出しまして.
下高井戸にあるTONINOなんですが,Bolognaにもできたんです.
良かったら行ってみてください.
駅から見て右手の大通り(ヘルツとかユーロップカーのオフィスがある通り)を行くと,すぐ,右行けばTONINOって看板出てますんで.
Via Cairoli,16です.ロトンダの近くです.
アントニオとひろしさんという2人のピッツァイヨーロは日本語OKですので.是非.
Commented by mono_mono_14 at 2007-03-27 02:16
>>Giancarloさん
ボローニャをぶらぶらですか。なんとうらやましい。しかもご友人のピッツェリアまで完備(?)だなんて。いいですね〜。
まったくもって残念なことながら、僕自身がボローニャの「TONINO」さんをお邪魔する機会は、今のままだと生涯に一度あるかどうかという感じでして、なんとも寂しい限りです。・・・などと寂しいことを言ってると、ほんとに寂しい人生になりそうですね(笑)、いかん、いかん。頑張ります。旬な情報を教えていただきありがとうございました。
それにしても、下高井戸からボローニャへ展開だなんて、なかなかに壮大でかっこいいですね。。。
<< 純粋なクラシック アレハンドロ・サンスを聴いてみる。 >>