『朧の森に棲む鬼』@新橋演舞場

 率直に言って、DVDでも度肝を抜かれる『アテルイ』の出来たるやすさまじいもので、それを新橋演舞場で観ることができなかったのは、まだ何も知らない幼子同然だったとは言え(なにがだ)、痛恨の極みだ。
 それから時は流れること数年。今日、ようやく、新橋演舞場にて、市川染五郎が劇団☆新感線と組んだ舞台を観ることができたのだった。『朧の森に棲む鬼』。あろうことか、東京公演千秋楽だ。しかも、前から5列目だ。近すぎて落ち着かない小心者の僕であった。周囲を埋め尽くすディープな演劇ファンと思しき妙齢のご婦人方との違い、くっきり。頑張れ、オレ。

 相変わらずの素晴らしい舞台セット。今回は、舞台上に雨が降ったり、滝や川が流れたりして、エンディング、びしょぬれで最期を遂げる市川染五郎の迫力は、音を立てて奔流するホンモノの水がもたらした迫力だったと思う。いや、アイディアさえあれば、まだまだいろんなことができるんだな、あの狭い舞台の制約の中でも。狭い我が家も工夫しろ、という教訓を導き出すことにする。

 市川染五郎。何て言うのか、歌舞伎の底力を思い知ると言うか、オーラがあった。とことんの悪人を演じたが、その嫌な感じ、生理的に受けつけたくない狂気が、高らかなる声から、研ぎ澄まされた身体所作から、だだ漏れだった。妹もあっと言う間に狂気が宿る恐ろしい女優だと思っているが、兄もやはりそうなのであった。ビバ、血筋! 高麗屋! 僕の遅刻肌は新婚旅行の新幹線にすら乗り遅れかかった母譲りだ。ビバ、血筋! こりゃだめや! なんだ、この違い。・・・ちょっと無理あった。すまん。

 阿部サダヲのキレっぷりは、アクターを超えてアスリートのようですらあった(それは市川染五郎にも言えることだけれど)。特に、失明以後の殺陣のスピード感はすさまじく、よく考えたら、あの殺陣では目を閉じてはいないにしても、薄目程度にはつぶっているはずで、そんな簡単なことではないことに、家に帰ってから気づいた。よくよく考えれば、あれはものすごいことだったのだ。そして、同時に、どれだけ売れようとも小劇団スピリットを失っていないところが、とてもすてきだ。途中、まとわりつく女優にドロップキックを見舞う場面があったのだけれど、そのキックが異様な高さだった。そんなに跳ぶな。しかし、彼女はあの蹴りを1ヶ月間受け続けてきて、これからの1ヶ月間も受け続けるのだろうか。そう考えると、彼女も小劇団スピリットに満ちていると言わざるを得ないな。

 古田新太も、舞台映えのする立ち姿と張りのある魅惑のボイスで、圧倒的な存在感を放ったが、彼はアスリートではないな。身体が横方向に伸びやすい生地でできているのだろう、きっと。親近感。実際には、それなりに鍛えられた身体ではあるのだと思うけれど。
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by mono_mono_14 | 2007-01-27 23:59 | 文/cultura | Comments(0)
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