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『空間に生きる──日本のパブリックアート展』

 ・・・モロモロ勘案すると、もう、今しかない。「現地調査」名目の外出を申請して(それは単なるエスケープではないのか?)、ものすごく駆け足で、と行っても地下鉄と徒歩だからちっとも駆けちゃいないのだが、『空間に生きる──日本のパブリックアート展』を観に行った。この週末で終わってしまうのだ。会場は世田谷美術館。以上、何となくデジャビュなイントロ。

 パブリックアートというのは、どうにも掴みどころがない。パブリックアートというのは、街角だとかビルのエントランスの辺りだとかに置かれている、形はわかりやすいけど意味不明だったり、そもそも右の端から左の端までわけがわからなかったりする彫刻のことだ、という認識は、どの程度、正しいのか。企画監修の世田谷美術館館長、一説によれば日本における2大ダニ・カラヴァニストの1人だという酒井忠康によれば、とりあえず「野外彫刻」と思っといてもいいぞ、とのこと。ただ、その「パブリック」の部分、つまり公的意義については、ものすごく考えるべきことがあり、正直、系統だった整理はなされていないのが現状で、従ってこの展覧会は、そういう問題提起の第一歩とすべく日本の現状を総括したものと位置づけられたい、とのことであった。札幌芸術の森美術館を経て世田谷美術館に回ってきたこの展示は、どうやらスペインへと飛びそうな気配。

 展示は3部構成で、「エポックメイキング・プロジェクト」、「ユニーク・プロジェクト」、「戦後パブリックアートの諸相」からなっている。「エポックメイキング・プロジェクト」が全部とは言わないまでも断然おもしろく、「ユニーク・プロジェクト」の中にも目を惹くものがいくつかある。あまり策を弄さず関心の所在を列記する。
●広島平和記念公園/丹下健三(+イサム・ノグチ):未見。日本人なら一度は見ておくべきなんだと思う。とは言え、そのためだけに赴くのは至難の業。少なくとも牡蠣の美味しい季節にすべき。
●大阪万国博覧会お祭り広場/丹下健三+岡本太郎:10数年前に一度だけ行ったことがある。万博時の丹下と岡本のせめぎ合いを感じることが不可能な今となっては、さほど興味は惹かれないが、太陽の塔の中には入ってみたい。お好み焼きの美味しい季節にすべき。年中か。
 以上は、力いっぱい国家プロジェクトと言ってよく、そこで登用されるのが丹下健三であり、容易には御しがたい傑出した彫刻家が存在していることが興味深い。文明史的戦没者鎮魂にせよ戦後的国威発揚にせよ、そういう表現を引き受けられるのは建築と彫刻だけなのではないか。しかし、パブリックアートは、そんなナショナルのレベルにとどまることはなく、むしろあっと言う間にコミュニティのレベルに降り立ち、拡がっていった。その主たる道筋は、公園を含むミュージアム化とストリート・ファニチャー化だったように見える。
●モエレ沼公園/イサム・ノグチ:未見にして必見。特にコメントを要しないと思う。脱線してついでに言えば、牟礼も必見と思う。言うまでもなく未見。なんだこの悲しいエクスキューズ。
●札幌芸術の森野外美術館:未見。きっとおもしろいと思う。ほとんどの作品がこの美術館のための新作なんだそう。
●ベネッセアートサイト直島・家プロジェクト/ベネッセ+安藤忠雄・他:未見にして必見。詣でる人多し。杉本博司の展示で見た護王神社なんかもここ。
 箱根彫刻の森美術館に始まるミュージアム化の流れの、現時点での到達点は、ひとつが札幌で、もうひとつが直島なんだろう。そして、その先にあるのが、恥ずかしながら僕はこの展示で知ったのだけど、砂防事業(地滑り対策)と連動したアートプロジェクトだ。日本の公共事業もやるじゃないの。『犬と鬼』の世界ばかりではなかったのだ。
●室生山上公園芸術の森/井上武吉+ダニ・カラヴァン:事業的な構造がどうなっているのかはよくわからなかったが、何だかものすごく画期的なことのような気がする。今年の夏にオープンした模様。行きたい。
 その他にも「Wave Wave Wave, Umi-Tsukushi」(小名浜港)とか、「アルテピアッツァ美唄」とか、興味深い場所はいくつもあった。
 一方、街角アート(ストリート・ファニチャー化)の方面では、相対的に心惹かれるものは少なかった。それでも、宇部市が野外彫刻展を1961年から、長野市が野外彫刻賞を1971年からそれぞれ現在に至るまで継続していることを知り、ずいぶんと先見の明を持った地方都市があったのだなあということに驚き、そして少し心打たれたり、した。
 
 ハンディな展示カタログは、写真が小さいのが惜しいものの、日本のパブリックアートの系譜と現状を簡便に俯瞰できるなかなかの良品で、40分ほどのDVDもついて2,000円。悪くないと思う。
by mono_mono_14 | 2006-12-20 18:37 | 文/cultura | Comments(6)
Commented by dicotomia at 2006-12-22 03:07
もちろん私も観に行きましたよ!(某エントリの秋色写真はその訪問の際に撮影したものです) そういえば札幌の後は世田谷美術館でしたね。 おっしゃるとおり今回のカタログ&DVDはなかなかお得感のあるハンディガイドに仕上がってますね。写真は残念だけど。巻末年表も興味深く、頭の中にバラバラに広がっていた点がやっと線で繋がった感じがしました。
牟礼、直島、室生山上公園参りは我が人生の必須課題だと思っているのですが、この展覧会を観て、今更ながら私も広島がリストに加わりましたよ(笑) しかし、これら環境(歴史、文化、風土、風景 ecc.)一体型芸術の理念を含んだ呼称としては 「パブリックアート」 も 「野外彫刻」 も しっくりこない気がするのですが・・・ 自分の話題に取り上げるときも いつもこの点で戸惑います。
≪Wave Wave Wave≫、ちゃんと寝転んで聞きましたか? さすがにmonoさんはしないかな?(笑)
Commented by mono_mono_14 at 2006-12-22 03:24
>>dicoさん
あ、行かれましたか。dicoさんの場合は、僕がカタログとDVDで眺めるだけだった空間の実物もすぐ近くにあるわけですね。いいなぁ。DVDの出来が割と好ましいのが、なかなか現地には足を運べない派(派じゃない)にとっては救いです(袋から出しにくいけど(笑))。
dicoさんの人生の必須課題は、そう遠からぬうちにクリアされそうですね。僕もそこには行きたいなーと思いますし、少し地の利もあるはずなのですが、負けること、確実です(笑)。
Wave Wave Wave。さすがに寝転ぶなんてことは、しましたよ。もちろんしますとも。いいと思いませんでしたか? 詐称湘南ボーイとしては、あれは全国展開してほしい装置です。最高です。真夏の一晩をあの上で過ごしてみたいです。

言われてみれば、確かに「パブリックアート」はいんちきくさい政治っぽさがある気がしますし、「野外彫刻」は肩の力が抜けすぎている気がします。イタリアでは何て言うんでしょうね(と、そんなところに活路を見出そうとしてみる(笑))。
Commented by dicotomia at 2006-12-26 02:05
いえ、そーでもないんですよ > そう遠からぬうちにクリア
やはり海を渡らなくてはならないというのは大問題で、北海道発着の飛行機、直行便がなかったり、運航便数が少なかったり、発着時間帯が悪かったり、料金が高かったり・・・で、「こんなに時間と費用がかかるなら、海外行けるじゃないかー!」 とつい思ってしまいます(いや、海外旅行より行く価値が低いわけではないのですが・・・)
寝転びましたか(笑) monoさんほどの大の大人? 大きい男の人? が寝転ぶのは大変かな?と思ったので(笑) ≪Wave Wave Wave≫、私もすっごく気に入りました! 特に夜間の写真、いいですよね~。思わずその情景の中にいる気分を想像してしまいました。隣に寝転んだ人と夜空を見上げながら、普段より饒舌に語り合えそうですよね。もちろん語らなくても、黙ったままでも、いつまでも過ごせそう。(スルーの代わりにこちらにコメント!(笑))
Commented by mono_mono_14 at 2006-12-26 02:34
>>dicoさん
あ、なるほど。確かに海外旅行と比較できちゃうような時間と費用がかかるかも知れませんね。それにdicoさんの必須課題地区は、それなりに不便な場所のような気もします(笑)。牟礼とか、行きたい時にふらっと行けるわけでもないですしね。でも、絶対に行く価値のある場所だと、僕も思います。
Wave Wave Wave。大きい男の人だからと言って、あれを見過ごしてしまうのは、もったいないったらありません。確かに、監視係(?)の人は席を外してくれましたから、少しおかしな絵だったのかも知れませんが(笑)。暖かな夏の夜、満天の星空、絶え間ない波の音。もしかしたら、その一晩で自分の中の価値観が少し動くんじゃないか。そう思えるような、とてつもなく素晴らしい装置だと思いました。寝転ばずに通り過ぎた人もたくさんいるんでしょうね。もったいないなー(笑)。
Commented by afotofoto at 2006-12-26 09:25
◇monoさん 今頃こちらにお邪魔です。
日本にも本当に見るべきところが一杯あるんだなぁ・・・と思うこの頃です。
北海道と室生(全然知りませんでした・恥)以外は、私の場合は充分
射程圏内なのですが、東京からわざわざとなると・・・大変ですよねー。
よく考えると、広島の平和公園は昔1度行ったっきり、今は仕事絡みで
年2,3回は行くんですが、いつもお好み焼き食べて、ソコへ行くだけ。
1年前、これまた仕事絡み、京都に宿取れなくて、茨木に泊まったのに、
時間なくて、光の教会&万博公園に行けずじまいでした(悲)。
直島は、またあったかくなったら、スタンダードやってる間に行って
みたいなーと思ってます。
牟礼は、イサムが誕生日をいつも過ごしたという11月初旬~中旬が
おすすめです。庭が本当に素晴らしいのです!竹と柿と石・・・。
ぜひ柿がなってる時期に・・・とおすすめします。
Commented by mono_mono_14 at 2006-12-26 19:08
>>afotoさん
そうそう、afotoさんはもう行ったんですよね、直島も、牟礼も。フォト日記をとても羨ましく思いつつ(笑)堪能しました。牟礼は11月がいいんですね。来年の11月に行けるといいんですが(笑)。直島も再訪予定だなんて、羨ましい限りです。またフォト日記でガマンしよう(笑)。

ほんと、日本も見るべきところがたくさんあります。でも、バルセロナの方が見るべきところのような気がしてきたりもします(笑)。ちっとも行けそうな気配がしないのですが(哀)、せめて限定復活中の某所(笑)で、バルセロナの空気を満喫しようと思います。
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