「有楽杉」

b0018597_1805120.jpg 有楽町の駅前で大きな再開発が動いている。いつもお客さんで溢れかえっていたタイスキ屋のコカレストランが入っていた古い(ゆえに趣のあった)ビルなんかがあった場所なのだけれど、今はすかーっと更地になり、高層ビルの基礎工事が進んでいる。商業のキーテナントに丸井が入るらしい。僕はもう丸井の基本ターゲットには入っていないので(僕も丸井を覗く気にはほとんどならない)、今のところ、あまり嬉しくはないのだけれど、まあ、2007年の完成を待ってみる。
 その工事現場の片隅、ちょうどJRの有楽町駅の改札に向き合うかどっこで、木のいい香りがした。工事現場は仮囲いという無愛想な鉄板などで囲われているけれど、その仮囲いに木材が使われているのだ。どれくらいの人がこれに気づいて足を止めたり、囲いを見やったりしているのかは不明だけれど(僕がこの場にいる間、これにあからさまに関心を持っていたのは僕だけっぽかった。囲いの写真を撮るなど、微妙に怪しげな行動を取っている僕に関心を向けた人の方が多かっただろう)。気づかなかったり、フンと鼻で笑ったりして済ますこともできる。一見、何てことないみたいに見えるしね。でも、よく見てみて。物静かだけれどいい佇まいだと思わない? これが現場を一周するとカッコいいんだけど、ここだけだとすると、ちょっと寂しい。

 この仮囲いのコンセプトが掲げられていた。少し長くなるけれど引用してみる。

「有楽杉・うらくすぎ」

 この仮囲いは「杉」でつくられています。
 江戸時代、主要な建築木材であった杉は、建物や建造物にも多く利用されていました。
当時関東周辺に用いられていた木材は、現在の埼玉県の南西部、荒川支流の入間川・高麗川・越辺川の流域から木材を筏(いかだ)により江戸へ流送していたので、「江戸の西の方の川から来る材」という意味から、「西川材」と呼ばれるようになりました。
そしてこの仮囲いにも同じ西川材の杉を用いています。
 また、有楽町駅は一九一〇年開業、すでに完成後九五年の歴史を持った駅です。町名、駅名は、織田信長の弟であった織田有楽斎(おだ・うらくさい)の邸宅がこの地にあったことによるといわれています。
 これから再開発を遂げるこの有楽町に杉の仮囲いを設置することによって、歴史を尊ぶとともに、木のぬくもりを改めて感じ、都市と森林の関係を考えるきっかけになればと願っています。
 そんな想いを込め、この仮囲いを有楽杉と名付けました。

                                        大成・鹿島・清水JV
                                        株式会社 トーニチコンサルタント
                                        デザイン:ナグモデザイン事務所

 トリビア的な話題を盛り込みつつまとめられたコンセプトには、いくぶん政治的な正しさとかエエカッコしい的な感じが気になるところは正直ある。あるのだけれども、たとえそういう若干の居心地の悪さが残ったとしても、こういう方向を向かざるを得ないんじゃないか。ふてぶてしく、あるいはおずおずと、こういう方向を向くべきなんじゃないか。こういうのが“毎日の環境学(的態度) ecological attitude of everyday life”ということになるんじゃないか。有楽杉のプロジェクト自体は、必ずしも環境的な視点ではないかも知れないけれど。それぞれの手の届く範囲でささやかな態度を示す。それらが知らぬ間に織りなされていく。そうして、これからの都市や生活が決まっていくんだという気がする。そういう意味で、これは、ささやかながらカッコいい、というところが決定的に大事な点だ。「工事中景展」で見たあれやこれやよりずいぶんと慎ましやかでオトナな解答だと思う。
 デザインを担当しているナグモデザイン事務所というのは、僕が最近、まとめ読みをしている土木系・ランドスケープ系デザインの書籍に頻出するデザイン事務所だ。こんな感じで、今、土木の“感度”がいいと思う。都市はずいぶんと後塵を拝してしまっている感じがする。
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by mono_mono_14 | 2006-04-12 18:02 | 街/citta | Comments(0)
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