『杉本博司 時間の終わり』展の話

b0018597_2345178.jpg ずいぶんと時間が経ってしまったけれど、昨秋から年明けまで六本木ヒルズの森美術館で開催されていた『杉本博司 時間の終わり』展の印象を綴っておくことにしたい。

 この展示を知ったのは、例によって例のごとく某B誌を通じてであった。展示の開始時期に合わせて特集号が編まれたのだった。題して「杉本博司を知っていますか?」。いえ、知りません。知ったかぶりの気配すら見せられぬ即答である。非常に力の入った特集で、実際に展示を観てきた後に再読すると、新たな発見がある。この特集号を最初にぱらぱらとめくっていた時に、茫洋たる水平線だけが広がる写真(「Seascapes」シリーズ)と、「Architecture」シリーズの1枚であるピンボケの中にかの有名なル・コルビュジェのサヴォワ邸がゆらゆらと浮かび上がる写真が、とても印象的だったのだ。この写真を観てみたい、そう思った。よって、必見の展示会という宣伝記事にも後押しされ、この展示は必ず観に行くと早々に決めたのだった。早々に決めたのだが、実際に森美術館を訪ねたのは会期末の前日という、例によって例のごとくの腰の重さであった。それなりに混んではいたのだけど、鑑賞に支障が出るほどのことではなくてよかった。



 会場は、大きく6つのゾーンに分かれている。大判のモノクロ写真が中心だ。最初は、機械模型や数理模型の接写「Mechanical Forms」「Mathematical Forms」。きれい。とてもきれいだが、僕の好みという感じではなかった。続いて地球の歴史を辿る「Dioramas」。先ほどの抽象的な造形とは打って変わって、いろいろな生き物たちがリアルに撮し出されている。リアルと言っても、剥製や模型を撮しているのだそう。インパラみたいな動物が数頭並んでこちらを見ている写真がカッコよかった。
 次のゾーンが、お目当て(その1)の「Seascapes」だった。かなり薄暗い展示空間にいろいろなグレー階調の水平線が並ぶ。被写体は世界各地の海だったり川だったり湖だったりするのだが一角には能舞台がしつらえられている。会期中にたった2日だけ、ここで能が舞われたのだと言う。観たかった。DVD化激しく希望。このゾーンでは、ちょっと発狂しそうな高周波のサウンドスケープがかすかに流されていたのだが、これはイマイチと言うか少しツラかったりした。なお、このシリーズの何枚かが、安藤忠雄が手がけた直島のベネッセ・ハウスで常設展示されているらしい。写真の水平線とホンモノの水平線とが並ぶように見えるのだとか。行ってみたい。
 これはすごい、と思ったのが、京都の三十三間堂に居並ぶ千体の観音様を端から端まで撮りきって1枚につないだ写真。全長が20mくらいある。夜明けの光を頼りに撮ったという観音様たちは、写真なのに異様な迫力を醸し出している。圧巻的壮観。夜と昼とのコントラストが決定的に大きかった昔、こういう神仏が醸し出す何か(んー畏怖の念とか?)は、想像の及ばないチカラを携えていたんだろうなと思う。
 続いて「Theaters」。1本の映画が始まって終わるまでの間、ずっとシャッターを開けて撮ったという映画館やドライブインシアターの写真。中央に白く光るスクリーンがあり、それを光源として映し出される周りの風景。僕には、ふぅん、という感じだった。ただ、世界にはクラシカルでカッコいい雰囲気の映画館があるんだなぁということには感心した。そして「Portraits」。蝋人形の肖像写真。生身のヒトを写し取ったタマシイなき蝋人形を撮した写真には、なぜだか再び生身のタマシイが収められているように見える。よって(?)、フツーの肖像画に見えてしまい、僕の関心をさほど惹かずに終わってしまったのだった。
 直島で展開された護王神社の模型「Appropriate Proportion」と、双幅の屏風のように仕立てた松林「Pine Trees」。模型の方は、実は、ふぅんという感じだったのだが、松林の方はシブかった。皇居辺りで松の写真を撮りまくり合成したものだそうで、どこかの松林に見えるけれど、どこにも存在しない松林なのだそう。翳りに消え入りそうなダークなトーンの繊細ながら重厚な松林。先の観音様たちに通じる何かの厳かさ、幽玄みたいなものが漂ってくる。この松林の写真をラベルに用いた日本酒が限定生産されていたが、それは買わなかった。やや高いというのもあったが、何よりも、すぐに飲み切ってしまうだろうし、その時には肝心のラベルを汚してしまっているだろうことが容易に想像できたからだ。
 自身のスタジオを撮した「Colors of Shadow」を経て、お目当て(その2)の「Architecture」のゾーンへ。世界の名建築の超ピンボケ写真だ。ボケたエッジがクッキリと力強く立ち上がってくるという、何だか矛盾した世界が広がる。ディテールを喪失した建築は、不思議な質感の面で構成された彫刻のようにも見える。カッコいい。某B誌の特集ページを見ると、LVMHグループの本社ビルにあるエッフェル塔を望むVIP会議室には、このシリーズの1つであるエッフェル塔の写真が飾られている。文化の香りプンプン。アイツらにはなかなか叶わない。

 やはり「Seascapes」と「Architecture」が展示されたゾーンがおもしろかった。前者から2点、後者から3点、絵はがきを買った。うっかり額装してしまうかも知れない。もちろん図録も買おうと思ったのだが、どうやらとっくに日本語版は完売していたようで、取り寄せ扱いになってしまった。取り寄せてもらえるだけありがたい。とても高い(6,000円ナリ!)けど迷わず注文。
 昨日、その図録がようやく届いたので、遅まきながらこのエントリを書いた次第。買っただけでまだ読めていない杉本のエッセイ『苔のむすまで』も楽しみ。
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by mono_mono_14 | 2006-02-02 23:45 | 文/cultura | Comments(0)
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