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アイラ島のシングルモルト

Se le nostre parole potessero essere i whisky... Questo e' il titolo di un libro con cui si puo' sentire il vento scozzese ed il profumo del whisky. Quando ero appassionato del whisky scozzese mi piaceva il Bowmore od il Laphroaig. Da alucuni anni non bevo il whisky, allora ne riprovero'?

 何気なく(と言うかしばしの現実逃避気味に)ブルータスNo.583をパラパラめくっていると、ウィスキーの特集があった。いろいろなお酒のブームが行きつ戻りつするけれど、またウィスキーの波が押し寄せつつあるのだろうか。こういうブームの波に身を委ねていくうちに、いくつかはブームを乗り越えて自分の小さな財産になるように思う。ワインは気軽に楽しく味わえるようになってきている気がする。ただし、ワインらしい(?)蘊蓄めいた話は少しも増えていないのだけれど。
 ウィスキーの波が僕に押し寄せてきたのは、今から7、8年前のことだったのではないか。表参道のほど近くにあるとあるバーに、割と足繁く(当社比)通っていた頃、いろいろなウィスキーを試させてもらった時期がある。ストレートかトワイスアップでゆっくり飲む。そして、とにかく水も飲め、というのがマスターの弁だった。飲むときにではなく胃の中で水割りにする。薄い水割りのグラスを重ねるよりは、ずいぶんウィスキーを美味しく味わうことができるはずだと思う。
 いろんな種類のシングルモルトを飲ませてもらったけれど、僕は、どちらかと言えば、端正な味わいのものよりもクセのある香りが漂うアイラ島のモルトが好みだった。メジャーどころで言えば、ボウモアとかラフロイグとか。その他にも珍しいのも試させてもらったのだが、残念ながら名前を思い出せるものがない。なお、試させてもらった、などと書いてきたけれど、もちろんお代は支払っているので念のため。

 先のブルータスの特集の中で、村上春樹の『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』のことが触れられていた。奥付を見るとちょうど6年前に出た本で、僕のウィスキー熱(ただし微熱)もまだ冷め切ってはいなかった頃だ。この人気作家の本を読んだことがない僕にとっては、最初に手にした(そして今のところは唯一の)村上春樹の本だ。村上春樹の作品から1冊を選ぶ時に、この本を選ぶ人は、きっとそう多くないのだろう。
 アイラ島とアイルランドを巡る夫婦旅行の折りに訪ねた蒸留所やウィスキーのある風景がエッセイと写真に形を変えて収められている。当時、あまりポジティブな読後感を得られなかったような記憶がある。何となく、僕にうまくフィットしなかったのだ。ブルータスに誘われて久しぶりに本棚から引っ張り出してぱらぱら眺めてみたところ、何とも味わい深い本に感じられた。どこかしら抵抗感のあった(ように記憶している)文体も、適度に僕に寄り添ってくる。
 そして、写真がまた素晴らしい。エッセイのような写真。こういう写真の魅力に僕が気づいたのは、正直に告白すれば、ほんのこの2、3年のことなのだ。村上春樹の奥方の手になるのだという写真、それが切り取っているような風景、空気感。ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』を読んでいた時に僕が想い浮かべていたのは、こういう風景であり、空気感であったと思う。中村俊輔のスコットランドより、こちらのスコットランドの方が、僕を遙かに惹きつける。

アイラ島のシングルモルト_b0018597_1943305.jpg シングルモルトを勉強させてくれたバーで、ラフロイグの蒸留所のポットスティルをかたどったペーパーウェイトをもらった。ペーパーウェイトとして使うことはほとんどないのだけれど、ずっと机の上に置いている。カクテルもウィスキーもいろいろ教えてもらったあのバーには、ずいぶんとご無沙汰している。僕の足が遠のき出した頃、そのバーは確かワインに目覚め始めていた。今はどうなっているだろう。久しぶりに顔を出してみるのも悪くはないかも知れない。
by mono_mono_14 | 2005-11-30 23:59 | 雑/quotidiana
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