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隆慶一郎『吉原御免状』

 劇団☆新感線の舞台を観て、その原作である同名の小説を読んだ。隆慶一郎『吉原御免状』。いや、おもしろかった。僕は、歴史小説を読むことがほとんどないのだけれど、おもしろかった。勇壮で妖艶で悲哀に満ちた物語だった。

 舞台を先に観ているので、舞台との違い、登場人物と配役のことなど、いろいろ余計な(?)ことを思い巡らせながら読むことになったけど、それもまた興味深い経験だった。原作を先に読むのとどちらがいいだろう? もし選べるのであれば、原作を後に読む方がいいんじゃないか。少なくともこの本と舞台に限って言えば、そんな気がした。しかし、不満と言うか、歯がゆい思いは残る。本を読んでおもしろかった箇所が、どのように脚本・演出されていたかをチェックしたいというキブンがとても高まってしまったのだ。本ではものすごく重要な役回りを演じていた高尾太夫とおしゃぶの舞台での印象があまり残っていないのがなぜなのか。それを辿り直してみたくてたまらなくなってしまった。舞台を観て、原作を読んで、もう一度舞台を観る。これが理想だな。DVD化を待とう。ちなみに、舞台でもおぞましかった裏切り者のリンチの場面は、本を読んでもおぞましかった。と言うか舞台では再現不能なほどのいっそうの凄惨さで描写されていた(慄)。

 読んだ本や読みかけの本の中身と軌道を重ねてくるところも興味深かった。無縁や公界を論じた網野善彦。江戸をトポロジカルに読み直している陣内秀信。江戸を数千年遡る大冒険に乗り出した中沢新一(網野の甥でもある)。今度の月曜日に中沢新一(とタモリと糸井重里)の話を聴く予定というのも、なかなかに縁なタイミング。
 塩野七生も思い出した。塩野七生は膨大な史実の猛烈な探求を踏まえた上で、登場人物の心情や史実には残っていない条件を推察しながら、歴史物語を紡いでいる。隆慶一郎もさまざまな史実を当たりながら、ここ一番で(カレー屋ではない)創作を組み合わせている。史実間をさもありそうな推察でつなぐかさもありそうな創作でつなぐかの違いがあるだけで(スタンスとしてはものすごく大きな違いではあるが)、文章が醸し出す雰囲気が近づくのも道理かなあと思う。歴史物を楽しむ最初のコツに気づいたような錯覚があるかも知れない(なんじゃそりゃ)。

 この本で、いちばん惹かれたのは、吉原が営業開始を告げる合図だという「みせすががき」だ。決して営業開始に惹かれたのではないぞ。灯りの入った店という店が一斉に同じメロディを三味線で奏でるのだという。今の東京からは想像もできないくらい暗かっただろう江戸の夕暮れに遊郭の灯りが煌めき、華やいだなかにどこか物憂げな色を残すメロディが響く。五感に沁みる景のような気がする。あぁ営業開始だと思わず大門をくぐってしまうかも知れない(オチてる?)。
by mono_mono_14 | 2005-10-22 17:04 | 本/libro | Comments(0)
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