寄藤文平『デザインの仕事』

 寄藤文平『デザインの仕事』読了。街の小さな本屋のレジ前にある平台の片隅に積んであったその脇を、素通りしかかったところでふと目が会い、手に取り、一瞬の躊躇の後にレジへと持っていった1冊。風に乗ってたまたま窓から入り込んで手元に届いたみたいな本だ。それがとてもおもしろかった。

 グラフィックデザイナーの寄藤文平が、自らの歩みと作品を「デザインの仕事」という枠組みからふり返って思うことが綴られている。現時点において自らの信ずるところを足場として、淡々とと言っていいほど飾り気なく、率直かつ穏やかに繰り広げられる語りは、静かな熱とグルーヴを放ちながら、読んでいる僕に入り込んでくる。僕は、自分の置かれた状況に照らし合わせながら、大きく頷いたり、目を見開かされたり、眉間にシワを寄せたり、虚空を仰ぎ見たり、ふうっと深い息を漏らしたりすることになる。とても楽しく豊かな時間だった。

 読みながら感じるワクワク感や胸騒ぎは、まるで冒険譚でも読んでいるかのようだが(実際、ここに綴られているのは寄藤の冒険の実録だが)、そこにドラマティックな演出はほとんどなされていない。むしろ慎重に遠ざけられている。章立ても、緻密で劇的というよりは、ざっくりとした割り切りのもとで組み立てられている。一歩引いた位置から冷静に全体を見渡している。デザインしすぎない構成デザインにより、そこに込められた穏やかな熱のようなものが伝わりやすくなっている。少しでも多くの何かが読み手に伝われば(少しでも多くの何かを読み手が受け取れれば、と言った方がよいかも知れない)…ということが編集の意図だとすれば、それは成功しているように思う。

 印象に残ったところを挙げればキリがないし、そもそも読む人それぞれが感じ取るべきお楽しみの部分なので、ここではあまり内容に立ち入らないことにするけれど、イラストレーターやデザイナーの社会的な立ち位置を巡ってぎりぎりと考え抜いている部分や、ロジックやストーリーに大きく依存する風潮への危惧、スランプとの向き合い方、デザインやアウトプットの技術を体系的な学問として組み立てられるのではないかという示唆の辺りなどが、強く印象に残った。

 本書の著者は寄藤ひとりだが、聞き書きを務めた木村俊介も、共著者と言ってもよいような、ものすごく重要で優れた仕事をしている。感じ入るところ大きかった。


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by mono_mono_14 | 2017-09-14 13:37 | 本/libro | Comments(0)
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