人気ブログランキング | 話題のタグを見る

吉本隆明・糸井重里『悪人正機』

Un libro scritto da Takaaki Yoshimoto (il padre di Banana Yoshimoto) e Shigesato Itoi il titolo di cui significa "I cattivi si sono salvati veramente" mi ha detto tante cose di importante. Pero', forse questo libro e' creato dalle interviste, penso che si avesse poter farlo meglio.

 『悪人正機』という、吉本隆明と糸井重里が書いた本を読み終えた。正確には、糸井が吉本の話を聞き(インタビューし)、それを糸井が編集した、という感じだと思う。本文中は吉本の一人語りのような体裁になっている。テツガク的なことから身の回りのちっぽけなことまで、多岐にわたるお題が語られる。示唆的な言い分がたくさんあった。悪人正機とは、「悪人こそが阿弥陀仏により救われ、往生をとげることができるということ。浄土真宗の開祖、親鸞が説いた。」のだと、手元にある集英社国語辞典にある。よく生きるための価値観について揺さぶりをかける“悪い”本だ。
 たぶん、テープ起こしからつくった本だと思う。僕も会議や聞き取り調査のテープ起こしをつくることが多々あり、その編集が割と得意だと勘違いしているから不遜にもこう思うのだが、もうちょっとだけ読み手の財産になる編集ができたんじゃないか、吉本はもっともっと言外に語っていたことがあるんじゃないか、という気がする。会話の現場では、空気で理解される事柄がたくさんあるけど、文章にする時には読み手のためにその空気を補ってあげないといけない。例えば、「今回のコレを、こないだみたいな感じでアレしてもらいましょう」みたいな発言は、その場では通じても、後から字面だけを追う人には翻訳してあげないと伝わらない。そこを翻訳しながら、語りのライブ感も残すのは、とてもとても大変な作業で、労働対価的にはまったく割に合わないんだけど、絶対にやる価値があると思う。たぶん、この一連の吉本の語り下ろしでも、そういう作業はヤになるほど重ねられたのだろうけれど、でも、ときどき置いてけぼりを食ったようなキブンで話題が移ろってしまう部分もあって、あともう少しやれたんじゃないかな、という印象が残った。でも、とても得るものの多い本であることは確か。吉本隆明はずいぶんとおじいちゃんだけど、何ともしなやかだ。



 参考までに、僕が思わず傍線を引いた箇所をちょっぴり抜き書き。
 よく「俺、友だちたくさんいるよ」なんて言うヤツいるけど、そんなの大部分はウソですよ(笑)。結局、ほとんど全部の人が本当は友達がゼロだと思うんです。(中略)月並みだけれども人生というのは孤独との闘いなんですから。(p.42)

 結局、頭良すぎてキレすぎる人は、何かポシャっちゃって、へとへとになったとき、もう全部やめちゃえって手を引いちゃうんです。(中略)僕は愚図だけど、粘るっていうのがあります。じたばたしろってことですかね。ほんとにダメだと思っても、じたばたしろっていう、ね。(pp.71-72)

 (前略)会社において、上司のことより重要なのは建物なんだってことです。明るくって、気持ちのいい建物が、少し歩けばコーヒーを飲めるとか盛り場に出られるような場所にあるっていう……そっちのほうが重要なんだってことなんです。(中略)理想的な建物が理想的な場所にあって、ある程度以上の規模の会社だったら、毎日来てもいいやって気持ちになりますね。(pp.86-87)

 (前略)人は「自分は、このようにちゃんとしたことを考えているんだ」と強く思えば思うほど、周りの他人が自分と同じように考えていなかったり、全然別のことを考えていたりすると、それが癪にさわってしょうがなくなる、ということでね……。
 でも、それはやっぱりダメなんですよ。真剣に考える自分の隣の人が、テレビのお笑いに夢中になっていたり、遊んでいたりするってことが許せなくなってくるっていうのは、間違っているんです。(p.136)

 だから、自分だけが決めたことでも何でもいいから、ちょっとでも長所があると思ったら、それを毎日、一〇年続けて、それで一丁前にならなかったら、この素っ首、差し上げるよって言えるような気がしますね。(p.176)

 (前略)そいつは、勉強なんかできないんですけど、スポーツは万能で、すごく気も回るし、人の世話もよく焼くし……。それでいて一種の内向性みたいなものもあるやつだったんですよ。
 いまでもそう思いますけど、こういうタイプの人が社会に出ても、居る場所っていうのは、なかなかないんですね。こいつのほんとのよさを受け入れてくれる社会ってのは日本にないんだ……っていう、もの悲しい気持ちは、今でもありますね。(pp.209-210)

 仕事なんてものも、大まじめにやっていたら、誰でもかならず、だんだん、「どうやったって、もうだめだ……」というふうになってしまいますからね。そういうことだと、そうそう続かないものです。(p.314)
(以上、すべて新潮文庫『悪人正機』より)
 何だかほんとうに、目からウロコが落ちたり、何かが腑に落ちたり、激しく同感だったり。吉本隆明をもう1、2冊読んでみようかなという気にさせられる。
by mono_mono_14 | 2005-03-29 23:59 | 本/libro
<< ある惹句 映画『オペラ座の怪人』 >>