人気ブログランキング |

勝川俊雄『日本の魚は大丈夫か』

 会社の向かいにある小さな書店では、何度か覗いてみても、この本が置かれる気配がない。こちらならあるかなと思って、少し足を伸ばした負けず劣らず小さな書店には、5冊ほどが平積みになっていた。そうあるべきだと思う。勝川俊雄『日本の魚は大丈夫か』。オススメ。

 注文した昼食ができあがるまでの間に気軽に読み始め、恥ずかしながら序でノックアウトを食らいそうになった。真摯で、他人をリスペクトして、内なる情熱は隠そうともせず、それでいて独りよがりとは感じさせない、そして読み手を惹きつけていく、そんな筆致で、水産業改革への意志が宣言されている。
 もちろん序だけではなく本文もおもしろかった。内容については、本を読んで理解してもらうべきなので、特に立ち入った紹介はしないが、本のつくり方で感じ入ったことを少しだけ記しておきたい。
 まず、漁業を取り巻く実態についてほとんど素人である僕のような読者たちのために、日本の漁業の歴史、問題点、海外の成功例などを簡潔かつ読みやすくガイドしてくれているのがありがたい。そして、それを鵜呑みにするのは読み手としてはまったく正しくない態度であるけれど、ひとまず鵜呑みにしておこうと思わせる滑らかさで、漁業の現在地点がつづられている点が素晴らしい。入門書として、ある種の理想型(少なくともそのひとつ)であるような、構成と内容、文体だと思う。平易でわかりやすい。そして、表現を平易にすることによって専門的に大事なことが失われることは少なくないが、その逸失率が小さいように感じられる。
 もしかすると、あまりにすらすら読めて、腑に落ちたり、膝を打ったりするものだから、なんか、うまいこと言いくるめられてるみたいで、ちょっとうさんくさいなあ、などと感じる向きもあるかも知れない、と思ったりもするのだが、僕としては、この文章は誠実さとして受け取りたい。
 漁業改革とは関係ないながら、水産物と放射能汚染について、特別に章が1つ設けられている。ここでの書きぶりも誠実で、ひとりの消費者・生活者としてもありがたかった。国のスポークスマンが、こんなふうに状況を説明してくれていたらよかったのに、と思う。

 そして、なんと言っても、この本のオソロシイところは、「水産業」のところを、他のあらゆる業界に置き換えても成立してしまいそうなこと。自分が関心を持っていて、かつ未来にうっすらとした(くっきりとしていてもいいが)不安を感じている業界、あるいは手っ取り早くは自分の属する業界に置き換えてみると、ちょっとした慄然とした気分が味わえる。いや、オソロシイ。
 おそらく、日本における何か(産業、文化、作法等々)の衰退だか退廃だかは、ほとんど同じ構造を持っている、ということだと思う。戦後を引っ張ってきた仕組みは、当時それほど強烈に素晴らしくできていて、全方位的に有効だったのだろう。戦後復興に有効だったそのブースター装置(成長加速型)も、しかし本当なら、せいぜい20年かそこらで次のエンジン(成熟巡航型)に切り替えなければいけなかったのに、そのまま50年以上も全開で回してきてしまった。そのツケが急速に膨らんでいる。遅れてきた副作用に打ちのめされている。そのあまりの痛みとツケの大きさに、ついこの事態には抗うすべが見あたらないよと思わされてしまう。
 しかしこの本は、そうじゃない、と言う。ぎりぎり間に合う、やろうぜ、と。水産業を語っている本だけれど、水産業に限らず、それぞれのフィールドが陥っている負のスパイラルから抜け出そう、そのための革命的ストラグルを始めようという、宣言の書であり、誘いの書でもある。そう読んで支障ない。もちろん、自分のフィールドの改革案は、自分で考えなければいけない。
 できるだけ多くの人に読んでもらえるといいと思う1冊。
by mono_mono_14 | 2011-09-15 20:47 | 本/libro | Comments(0)
<< 連載・東北紀行(第2回) 連載・東北紀行(第1回) >>