つかの間の、地中海。

 暑すぎた夏が、ようやく重い腰を上げて立ち去ろうとしたころ、僕のところにひとつの音楽が届いた。1枚のCDを買ったということだが。Fabrizio de Andre『Creuza de Ma』。『Rimini』がよかったので。
 『地中海への道程』という邦題がついているこの1枚は、どういう感じであるかを簡単には言いがたい。少しケルトのようだし(レッド・ツェッペリンを想起させるニュアンスがある)、アラブの色彩も強い。シタールのような弦の調べもある(ポール・ウェラーのやった「Mather」を思い出した)。リンガラ・ポップを彷彿とさせる軽快なギターの音もする。アフリカらしき打楽器も響いている。邦題が示すように、地中海をとりまくあちこちの土着的な音が、地中海をめざして集まってきたかのよう。なるほど、文明の交差点、地中海。
 演奏は、半時間ほどの短いアルバムを通じて、どちらかと言えば穏やかで、ドラマティックなアレンジはほとんど見られない。バルセロナ・ミクスチュア・シーンのような文明の交差点の喧噪という趣ではない。さほどメロディアスでもない。でも、穏やか気味の音の中にも不思議な昂揚感があり、同時にそこはかとない寂寥感がある。この昂揚感と寂寥感はどこから来るのだろう。
 イヤフォンから流れてくる音楽に身を委ねてみる。やや傾き賭けた陽射し、まとわりつく暖かな風、海と空の重なり合う彼方を見やる遠い視線。これは、海が持つ昂ぶりであり、寂しさなのだ。このアルバムが流れるつかの間、僕は地中海のただ中に我が身を置いているのだ。
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by mono_mono_14 | 2010-10-07 22:43 | 音/musica | Comments(0)
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