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指南役『「朝ドラ」一人勝ちの法則』

 指南役『「朝ドラ」一人勝ちの法則』読了。正直、これまであまり読んだことのないテーマの本。「すこし長めの、はじめに」は、「ドラマを愛する全ての人々へ、この本を捧げます。あなたのドラマ作り、ドラマ選びの一助になれば幸いです。」という文章で締められている。一義的には、ドラマを題材にドラマ好きの人たちに向けて書かれた本なのだろう。そういう意味では、最近、朝ドラこそ時計も兼ねて観てはいるものの、特にドラマ好きというわけでもない僕は、読者として想定されていないような気もするが、まあ何かの縁で手にしたわけだし、気楽に読み始めてみた。そして、得るもの多く読み終えてしまった。

 5章立てで、そのうち最初の4章が朝ドラや連ドラの浮き沈みの読み解きに充てられている。へー、そうなのかー、なるほどねー、と、それこそリビングでドラマを見ているように楽しく読んだが、いかんせん、取り上げられているドラマ自体をあまり知らない(し、必然的に脚本家もさほど知らない)ため、ドラマ好きからしたら堪えられないのだろう解説のおもしろさを味わいきれていないだろうことは確かで、そのことは、ちょっと惜しまれるというか残念ではあった。
 しかし、最後の5章。連ドラ復活の処方箋の体裁をとったこの章が、すんごくよかった。この部分は、仕事であれ、日々の暮らしであれ、何かにクリエイティブに向き合いたいという心持ちがあれば、テレビドラマへの興味の濃淡は関係なく刺激的に読めると思う。

 5章へのブリッジとなる4章の最後の辺りにこう記されている。
 日本も強くなりすぎたテレビ局や芸能プロダクションが、大きな曲がり角に来ている。その先に待ち受けるのは、クリエイティブで勝負する制作会社の時代であり、真に能力で判定される俳優個人の時代である。(p.157・強調原文)
 ドラマの制作現場の将来展望として書かれているけれども、この「制作会社」と「俳優個人」のところは、自分の生きる世界に照らした置き換えが可能だ。僕は(というかおそらく誰もが)、ある時は制作会社として社会と接し、ある時は俳優個人として振る舞っている。「連ドラ再興の話をしますけど、これ、あなたの世界に当てはめて読めると思いますよ」という著者の思惑が伏流水のように流れている。少なくともこれに続く5章はそう読めるように書かれている。

 中身の詳細な紹介は控えるけれど、僕は、自分に引き寄せた時に、大事なことは次の2つだと受け止めた。1)先輩方はこいつはという若い人に思い切って大きなチャンスを与え、その人を支えよ(抜擢された若い人は大いに奮い立て)、2)そこで紡がれるストーリー(ドラマでいう脚本で、仕事の局面によってはロジックなどに当たる場合もあるだろう)は一から十までオリジナルである必要は全くなく、むしろ先人たちのすぐれた仕事を大いに参照しつつ、そのアップデートに注力することが大事だ。この2つだ。
 「あの本、読んだ?」「いえ」。
 「この作品、知ってる?」「いえ」。
 どんなに張り切ったとしても、こんなところでオリジナリティとクリエイティビティにあふれた何かが生まれる可能性はゼロだ。…我が身を振り返ってうなだれて押し黙る場面となってしまうが、それでも、過去に頼って未来を描いていいんだという示唆は、改めて僕の視界をずいぶんと明るくしてくれる。もちろん、すぐれた過去を参照する必要はあるけれど、すぐれた過去は文献だろうと事例だろうといくらでも思い当たるものだ(進行中の現在をいかに注意深く察知するかということが、案外、難しいかも知れない)。
 ここで、ふいに『知ろうとすること。』での早野龍五の言葉を思い出す。
 端的にいえば、自分が研究したり、発言したりする分野において、過去に何が起きて、いまどこまでがわかっていて、どこからがわかってないかというようなことは、勉強しなくちゃいけない。それは必須です。(早野龍五・糸井重里『知ろうとすること。』新潮文庫、pp.150-151)
 グーグルに気楽に訊いてわかったような気になる日々を、もうずいぶんと過ごしてきてしまった。ネット検索のない世界には戻れないし、戻る必要もないけれど、その便利さや気楽さにとどまらないで、過去の蓄積と進行中の現在に敬意を持って向き合いながら、未来を思い描き、なんとかそこに向かおうとする。そうありたいし、あらねばな、と改めて思った。うん、怠惰に流されがちな凡人がまた少し気を引き締めたという、ドラマのかけらもない話になってしまったな。愛くるしい。
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 謝辞。ふだん手に取らないようなテーマの本を楽しく読んでしまったのは、ひとえに田中泰延さんの紹介ツイートを目にしたおかげです。ありがとうございました。

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by mono_mono_14 | 2017-09-20 12:27 | 本/libro | Comments(0)

寄藤文平『デザインの仕事』

 寄藤文平『デザインの仕事』読了。街の小さな本屋のレジ前にある平台の片隅に積んであったその脇を、素通りしかかったところでふと目が会い、手に取り、一瞬の躊躇の後にレジへと持っていった1冊。風に乗ってたまたま窓から入り込んで手元に届いたみたいな本だ。それがとてもおもしろかった。

 グラフィックデザイナーの寄藤文平が、自らの歩みと作品を「デザインの仕事」という枠組みからふり返って思うことが綴られている。現時点において自らの信ずるところを足場として、淡々とと言っていいほど飾り気なく、率直かつ穏やかに繰り広げられる語りは、静かな熱とグルーヴを放ちながら、読んでいる僕に入り込んでくる。僕は、自分の置かれた状況に照らし合わせながら、大きく頷いたり、目を見開かされたり、眉間にシワを寄せたり、虚空を仰ぎ見たり、ふうっと深い息を漏らしたりすることになる。とても楽しく豊かな時間だった。

 読みながら感じるワクワク感や胸騒ぎは、まるで冒険譚でも読んでいるかのようだが(実際、ここに綴られているのは寄藤の冒険の実録だが)、そこにドラマティックな演出はほとんどなされていない。むしろ慎重に遠ざけられている。章立ても、緻密で劇的というよりは、ざっくりとした割り切りのもとで組み立てられている。一歩引いた位置から冷静に全体を見渡している。デザインしすぎない構成デザインにより、そこに込められた穏やかな熱のようなものが伝わりやすくなっている。少しでも多くの何かが読み手に伝われば(少しでも多くの何かを読み手が受け取れれば、と言った方がよいかも知れない)…ということが編集の意図だとすれば、それは成功しているように思う。

 印象に残ったところを挙げればキリがないし、そもそも読む人それぞれが感じ取るべきお楽しみの部分なので、ここではあまり内容に立ち入らないことにするけれど、イラストレーターやデザイナーの社会的な立ち位置を巡ってぎりぎりと考え抜いている部分や、ロジックやストーリーに大きく依存する風潮への危惧、スランプとの向き合い方、デザインやアウトプットの技術を体系的な学問として組み立てられるのではないかという示唆の辺りなどが、強く印象に残った。

 本書の著者は寄藤ひとりだが、聞き書きを務めた木村俊介も、共著者と言ってもよいような、ものすごく重要で優れた仕事をしている。感じ入るところ大きかった。


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by mono_mono_14 | 2017-09-14 13:37 | 本/libro | Comments(0)