水の迷宮の夢
心が疲れた人はヴェネツィアに行くのがいい。それが叶わぬのなら、この本をゆっくり読むのがいい──。帯に記された池澤夏樹の文章は、伊コヒイキの人たちなら一度くらいは目を留めたことがあるかも知れない。ノーベル賞作家の小説としては初めての邦訳らしいから、読んだ人も少なくないだろう。ヨシフ・ブロツキー『ヴェネツィア』。邦訳が出たのは1996年。僕が持っているのは第一刷から2月を経ないうちに出された第四刷だ。その頃に買ったのだと思う。そして読んでみて、どうよ、これ。と思ったのだった。
およそ10年の年月を経て、なぜだか再読しようという気になって、池澤が勧めるように少しずつ読み進めた。どうよ、これ、という印象は拭い去れなかったのだが、たぶんその責について、読者の側(つまり僕)に相当部分があるにせよ、それ以外のほとんどを翻訳が負っているのだろう、と思えた。英語が堪能だったら原書を読んでみたいところだ。 ヴェネツィアにある無数の路地を模したような無数の断章(と言っても51編に過ぎないが)。そこに写し取られているのは、やはり唯一無二の奇跡の都・ヴェネツィアが放つ、言葉では表しがたい眩さや翳りであり、しかも、僕のようなヴェネツィアに行ったと言うのも気が引けるような滞在経験ではとても窺い知れぬ深みであるのだ。サンタルチア駅に始まる水の迷宮の夢は、同じくサンタルチア駅から始まった僕のなけなしのヴェネツィアを思い出させた。 ヴェネツィアつながりでもうひとつ。つい先日、本屋でたまたま見かけて購入した『漁夫マルコの見た夢』は、かの塩野七生が30年ほど前に書いた短い絵本だ。この秋に復刻版が出たらしい。ここでもまた描かれているのは夢か現か判然としない物語で、舞台としてはやはりヴェネツィアしかあり得まいと思わされるのであった。
by mono_mono_14
| 2007-11-23 23:17
| 本/libro
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