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金子達仁・戸塚啓・木崎伸也『敗因と』

 『敗因と』。共著ながら金子達仁・入魂の1冊。との前評判(半ば自ら煽ったものではあるのだけれど)。これは、エキサイトにある公式ブログで沸き起こったものだったりする。金子と後輩・戸塚啓、弟子・木崎伸也の3人で分担して、ドイツワールドカップでの日本代表の姿を膨大なインタビューや実況放送から再構成したドキュメンタリー・タッチの1冊。ある意味、勝負の1冊であり、『28年目のハーフタイム』で衝撃を受け、しかし、それがピークだったなと思ってしまう一読者としては、期待半分、失望予防半分といった心構えで買い求めた。プロローグと9つのセクションからなるこの本は、金子2本、戸塚5本、木崎3本という構成で執筆されたものであることを目次で知り、やや期待の割合を下方修正して読み進め、先ほど読み終えた。



 うーん。やっぱり、もうダメなのかなあ。いや、そんな言い方なんてないのだけれど。でも。

 なぜジーコジャパンのワールドカップはあんなふうになってしまったのか。テーマとしては申し分ない。たぶん、たくさんのいい取材ができたんじゃないかと思う。そう推測するに足るきらめきがページを繰るなかにいくつも見つけられる。つまり、素材も揃った(もしかすると揃いすぎたかも知れない)。そして、その素材の持ち味を活かした最高の料理がつくられた、というわけではないと思う。

 もっとも、料理するだけでも相当の難事業ではあるのだと思う。僕は、せいぜいが調査報告書の類とこのブログくらいしか文章を書いていないわけだけれど、それでも文章を書くのはとても難しいと思う。ましてや、店頭で平積みされるような売り物になるような文章を紡ぐのは、想像するに並大抵のことではないだろう。4人目の著者として1章を任されたら、目も当てられない惨敗にまみれること必至だ。それはそうなのだが、しかし、平積みされる単行本を書き下ろすような人たちであれば、そのしんどいハードルは何とか跳び越えてもらいたいと思う。

 思うに、そうは決して書いてないのだけれど、「つまり、結論なんてないんだよ、サッカーに関心を寄せるひとりひとりが何が悪かったのだろう、と考えるその先にだけ、未来が輝き得るのかも知れないのだから」ということにしてしまったのだと思う。「敗因を具体化するべきだと考えた。……できるかぎり真実に近づくべきだと思った。」とあとがきにあるが、著者なりの敗因の特定を避けたと思う。そこにこの本の「敗因」があると思う。結論めいたことはなかったわけではないが、それは、膨大なデータ収集を要しない、ちょっと思いめぐらせたら辿りついたというような地平にあるものだと思う。

 金子達仁が切り拓いたスポーツ・ライティングの世界というのは確実にあると思うし、計り知れない功績があるとも思う。僕以外にも、彼の書くものに心を打たれた人は何人もいるだろうし、少しためた間合いのドラマティックな彼の文体に抗いがたく惹かれた人も少なくないだろう。でも、もう、クリシェだ。次なる一歩をどうにかすべき時期にあると思う。割り引きつつも期待もしていた1冊なだけに、ちょっぴり悲しい。
 ただ、本はそこそこ売れるだろうし、もしかすると評判も取るかも知れない。著者らが言うように、サッカーに関心のある人が、ドイツ大会は何だったんだろうと考えることが、「サッカー大国」への道を歩みたいのであれば必要不可欠だ。さらに言えば、ほんとうはフランス大会も、韓日大会も、同じようなことをすべきなのに、していないんだと思う。
by mono_mono_14 | 2006-12-19 05:09 | 本/libro
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