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池田清彦『環境問題のウソ』

 何しろ僕は時としていろんなことを真に受けやすい。たまたま読んだ本に感銘を受けたりすれば、傾倒っていうのは大げさだけど、その主張にものすごく引き寄せられる。つまり、偏る。歪む。だから僕は、感銘した主張とは違う角度、違う価値観から切り込んでくる主張にも目配りした方がいいな、と思ったりするわけで。池田清彦『環境問題のウソ』。帯には「京都議定書を守るニッポンはバカである!」とのマテラッツィばりの挑発が記されている。しかし賢明なるニッポン人は頭突きで応じたりしてはならない。まずは読もうじゃないか。
 この本は、富山和子の『環境問題とは何か』とセットで買い求めたもので、中学生や高校生くらいをターゲットにした新書だ。どこかしら山形浩生ふうのぶっちゃけた文体で書かれていて、とりあえずは読みやすいのだが、内容は時に難しい領域に立ち入っていたりもする。
 著者はあとがきで煽っている。──『私が若い人たちに言いたいのは、世間で流通している正義の物語りを信じるのは、墓に入ってからでも遅くはないってことだな。「正義」というのはあなたの頭を破壊する麻薬である。麻薬中毒になる前に、たとえごくわずかでもよい、抵抗せよ。』

 この本では4つの「環境問題」を取り上げられている。地球温暖化問題、ダイオキシン問題、外来種問題、自然保護の4つ。著者はこれらの問題そのものと、その対策に潜むキナ臭さを嗅ぎつけて、警鐘を鳴らしている。これらの環境問題への対応に投入されている税金のあまりの巨額さ。問題を措定する論理の立ち位置や思想のいびつさ、不健全さ。
 紹介されている一例を挙げれば、動物園の不手際から山に逃げ出したタイワンザルと、その山にいたニホンザルとの混血(これを遺伝子汚染と呼ぶらしい)が進むのを恐れるあまり、タイワンザルと混血ザルを捕獲して殺すことにしたという例があるのだそうだが、確かにこれはナチズム的純血主義と思想的にはイコールだ。
 もうひとつ、なかなか示唆に富んでいると思ったセンテンスを引用しておく。自然保護のあり方について述べているところなのだが、あらゆる分野で同じように考えることができるだろう。──『税金を使って自然保護をやっているうちは自然保護は結局だれかの利権でしかない。真の自然保護のためには、人々がお金を払って、あるいは労働をして、自然保護をしたくなるような仕組みを作らなければ仕方がない。』

 筋金入りの鵜呑ミストである僕としては、この本を読んだら読んだで、ここで取り上げられた4つの環境問題が、たちまち真剣に取り上げるに値しないいかがわしいものに見えてきたりするありさまで、だからこんな僕がささやかなナチズムに陥らないようにするには、やっぱり幅広い雑食主義で応じていくしかないのだろうと思う次第。
by mono_mono_14 | 2006-07-12 11:06 | 本/libro
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