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周杰倫『葉惠美』

 僕の努力の足りない他力本願さを前面に押し出した「ネット経由で僕のアンテナに引っかかったインフォにまんまと乗ってみよう企画」の第五弾。またもやCD。本当はこの企画にはふさわしくないかも知れない。なぜなら直接に勧めてもらったみたいなものだから(Muchas gracias!)。周杰倫『葉惠美』 。

 漢字ばかりの歌詞カードは思いのほか意味が読み取れず、聴き取れることなどなおあろうはずもなく、完全に音楽としての声、楽器の響きとしての中国語(幅広くてすまん)だ。デパートの店内放送などで耳にする中国語(幅広くてすまん)とはずいぶん違う感じで聞こえる。音楽的親和性の高い言語なんじゃないかと思ったり。メロディに乗せた方が滑らかで艶やかだ。それとも単に歌い手の資質の問題だろうか。
M01「以父之名」:欧州の哀愁と日本海の演歌との狭間を行くような(どんなだ)愁いを帯びた旋律に乗せて穏やかなラップ。冬枯れの林を逃避行してるみたいな雰囲気。冒頭にイタリア語が話されている気がする(「気がする」としか書けないところも哀愁の調べ)。
M02「懦夫」:日本のハードロックみたいなギター。つくりがちょっとヘヴィメタルに近づいていくような感じがある。ミドルティーンをハードロック/ヘヴィメタル少年として過ごした過去が寝ぼけ眼で頭をもたげてきたりした。途中でかぶってくる女の子のボーカルとコーラスがとてもあどけない。
M03「晴天」:アーシーでメロウなフォーク・ロック。いくらかウェラー風味。もっとも、声が繊細なのとサビが美メロなので、ウェラーには全然聞こえないんだけど。エモーショナルな美しいメロディラインが簡単に書ける人なんだな、きっと。いい曲。
M04「三年二班」:ピンポン球の跳ねる音(だと思う)がパーカッシヴに使われている。さすが中華だ(?)。プレイヤーリストに「卓球実技」とか載ってないか期待したが、やはりなかった(当たり前か)。緩やかな弦楽の調べに乗せて届けられる告白調のラップ(と白熱の卓球大会)。
M05「東風破」:サビメロ、きれい。ノスタルジック。ライブならペンライトが揺れたりしてそうな感じ。中国の楽器(名称等不案内。琴かハープみたいな音がするヤツとヴァイオリンみたいな音のヤツ)が多用されているけれど、うまくハマッてる。ローカルとグローバルの織り合わせ方が巧みな人だなあと思う。
M06「妳聽得到」:M05と同系のメロウな曲だけれど、こっちの方がさらにいい。メロディもアレンジもビルボードのヒットチャートで8位くらいには入りそうなキャッチーさ。実際、80年代にアメリカで売れてたような曲調に少し近いのかも。アメリカに進出しているのか知らないけれど。
M07「同一種調調」:いい。少しキッチュなところもあるけれど、美メロライターとは違うもうひとつのクリエイティブな才能(があると僕は思う)が如実に表れている曲。抑えたトーンで紡ぐラップ。イントロのハープシコードみたいな音色で奏でられる旋律は、またもやヘヴィメタルが好んで用いるような音。クラシック出身の人なのかしら。
M08「她的睫毛」:ポジティブで軽やかなロック。ちょっとダルい感じで歌ってみているが、サビは美しく爽やかだ。ギターのアルペジオはどこかしらメタル風味だけれど、曲はとてもポップ。
M09「愛情懸崖」:重く翳りのあるピアノ。泣き入りそうな声。しかし、曲が進むに連れどんどん伸びやかなポップソングに花開いていく。シンプルながらも希望をたたえた調べのストリングス。
M10「梯田」:あんまり聴いてないくせに引用するのは何だけれど、途中、ブライアン・フェリー(ロキシー・ミュージック)をふと思い出した。舞台のような曲(って、これじゃあ説明になってないけど)。
M11「隻刀」:ダメオシ(?)気味にメタル系ギターのイントロ。でもイントロだけ。それ以外のギターはカッコよく、とりわけ展開部でのギターがカッコいい。全体を不安に煽るストリングスも印象的。途中、剣術試合のような音が少しかぶさってくるのだけれど、それは僕的には要らない。

「晴天」と「東風破」と「同一種調調」が僕的ベスト3。
 何となくマイケル・シェンカーとかを思い起こす場面がちらほらあり、それがメタル風味? との印象につながっている。
 僕が最初に聴いた『七里香』というアルバムは2004年に出たらしく、この『葉惠美』は2003年とある。これが出てあれが出たのか、と思うと、何となく頷けるところがある。実際にどのような評価を得ているのかは知らないのだけれど、この2枚の間を流れた1年における音楽的成長というかディベロップは目をみはるものがある。「晴天」や「東風破」を「七里香」や「園遊會」にまで磨き上げ、「同一種調調」を「亂舞春秋」にまで尖らせている。ストリングスの使い方も巧くなってると思うし、アレンジも多彩になっている。『七里香』を踏まえて『葉惠美』を聴くと、僕には『葉惠美』が『七里香』の原石のように映る。じゃあ『七里香』の2004年を経た2005年、2006年はどうなってるのよ、どうなってくのよ。そういう興味がないと言えばウソになる。
by mono_mono_14 | 2006-04-11 23:15 | 音/musica
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