マンマ・ジュリエッタの物語

 思ったよりもすいすいと読み終えた『カルメンの白いスカーフ』。少なからず刊行されている「日本人、イタリアに出会う」タイプの1冊ではあるのだけれど、出会った相手がハンパない。何しろスカラ座のプリマドンナだ。著者の武谷なおみさんは、子どもの頃に聴いた来日公演の演奏に強烈な感銘を受け、不世出のメゾ・ソプラノと称されるジュリエッタ・シミオナートへたどたどしいファンレターを送ったところから、この奇跡的な出会いと交流の物語は始まる。武谷さんとシミオナートの私的なエピソードを通じて、シミオナートのすごさ、ひいてはイタリア文化の懐の深さみたいなものを浮かび上がらせようとするノンフィクション。スーパースターならではの魅惑的なエピソードが満載で、あれよあれよとページが進んでいった。
 最初にファンレターを送った小さな勇気と、その小さな勇気を生むだけの大きな感動を与えたシミオナート。後者は誰にでもできることではないので、せめてここぞという機会に前者くらいの小さな勇気を振り絞れるようであれたらいいな、と思う。

 武谷さんの『イタリア覗きめがね』という本を以前に読んだことがあった。これも私的エピソードの断片からイタリアというかシチリア文化を繙くような中身の本なのだけれど、僕の主たる興味は、著者本人が被害のまっただ中に身を置くこととなった阪神淡路大震災の復興にまつわる物語と、文豪・谷崎潤一郎が細雪を書いた庵の保存問題を綴った部分にあった。海へ山へと積極的に都市開発を進め、株式会社神戸市役所などと揶揄されたり羨望されたりしていた神戸の街づくりが議論の俎上に上がっていたのを、とても興味深く読んだ。もちろん、シミオナートとのエピソードを含むイタリアの話もおもしろかった。その印象が僕のなかにあったので、書店の片隅に1冊あった『カルメンの白いスカーフ』にも目が留まったのだった。

 この本を読んでがぜん興味が湧いてきた『カヴァレリア・ルスティカーナ』は、全曲で1時間半にも満たない1幕ものの短いオペラ。シチリアを舞台にした愛憎劇。思いがけず聴き覚えのある旋律もあったりして、南国の濃いパッションに包まれた劇的な作品だった。シミオナートは血を吐かんばかりの激唱だった。テノールのマリオ・デル・モナコとの二重唱など、どちらも血の気の濃いというか、情熱的な歌声。こんなのをナマで聴いたら卒倒しそうだよ。

 来年は、武谷さんをはじめ数多くの日本人の心を捉えたイタリア歌劇団の初来日公演から50年に当たるのだそう。武谷さんはシミオナートの来日に対する期待でこの本を結んでいるが、もしそんな展開になったら、何だかとても素敵なことだと思う。
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by mono_mono_14 | 2005-12-19 23:59 | 伊/italia | Comments(0)
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